最近、「人手不足」という言葉をよく聞きます。
採用したくても応募が集まらない。現場を任せられる人が足りない。若い社員が入ってこない。
就職氷河期を知る世代としては、ずいぶん時代が変わったと感じます。かつては、働きたくても就職先が見つからず、希望する仕事に就くこと自体が難しかったからです。
昔は仕事を探す人が多かったのに、今は働く人が足りない。この変化は、なぜ起きたのでしょうか。
人口の変化はもちろんあります。ただ、それだけでは説明しきれない部分もありそうです。今回は、人手不足の背景と、就職氷河期世代の経験が今の社会にどうつながっているのかを考えてみます。
就職難から人手不足へ、何が変わったのか
就職氷河期世代とは、一般に、バブル崩壊後の厳しい雇用環境の中、おおむね1993〜2004年に学校卒業期を迎えた世代を指します。
当時は、不況の影響で企業の採用が厳しくなり、希望する就職ができず、不安定な仕事や無業の状態から社会人生活を始めた人もいました。
厚生労働省も、不況と新卒一括採用の影響が、その後のキャリア形成にまで残った人がいると説明しています。www.mhlw.go.jp
現在の人手不足は、このころと同じ条件の下で起きているわけではありません。
若い世代の人数が変わり、必要とされる仕事も変わっています。企業が求める経験や技能と、働き手が持っているものが、うまく合わない場合もあります。
人手不足を理解するには、「日本に何人いるか」に加えて、どんな仕事に、どんな条件で、どんな人を求めているのかを見る必要があります。
若い世代は「いない」のではなく、人数が少ない
人手不足の背景を考えるうえで、世代ごとの人数の違いは外せません。
総務省の労働力調査によると、2025年平均の年齢階級別の労働力人口は、次のようになっています。
| 年齢階級 | 労働力人口 |
|---|---|
| 25〜34歳 | 1,190万人 |
| 35〜44歳 | 1,280万人 |
| 45〜54歳 | 1,639万人 |
労働力人口は、働いている人と、仕事を探している完全失業者を合わせた人数です。
この年齢区分は氷河期世代の範囲と完全には一致しませんが、45〜54歳に比べ、それより若い年齢層の人数が少ないことが分かります。
一方、労働力人口全体は7,004万人で、前年より47万人増えています。www.stat.go.jp
ここは少し意外に感じるかもしれません。人口が減っていても、これまで働いていなかった人が仕事に就けば、働き手の数は増えることがあります。
それでも、ある地域や職種では人が足りない。必要な時間帯に働ける人が見つからない。
働き手の総数だけでは、個々の職場の人手不足までは分からないのです。
会社の「中堅社員が少ない」には、採用してきた歴史もある
人口全体の話とは別に、会社の中で特定の年齢層が少ない問題もあります。
例えば、ある時期に新卒採用を減らした会社では、その入社年次の社員が少なくなります。その後の中途採用や育成が十分でなければ、何年たっても、その層の薄さが残る可能性があります。
若手とベテランはいるけれど、その間をつなぐ人が少ない。現場の実務も、後輩の指導も、管理業務も、限られた人に集まってしまう。
こうした状況は、単に「今の若い人が少ない」という話だけでは整理できません。
もちろん、年齢構成は会社によって違います。中途採用で補ってきた会社もあれば、事業の拡大によって新たに人が必要になった会社もあるでしょう。
それでも、現在の組織には、過去に誰を採用し、どう育ててきたかが表れます。
採用人数を増やすことと、仕事を任せられる人が育つことには、時間差があります。今の人手不足を考えるときは、長い目で人を育てることも大切なのだと思います。
人手不足なのに、希望する仕事に就けないのはなぜ?
人手不足と聞くと、「それなら、仕事を探している人はすぐに就職できるのでは」と感じます。
ただ、企業と働き手の条件が合うとは限りません。
| 企業が求める条件の例 | 働き手が重視する条件の例 |
|---|---|
| 特定の技能や実務経験 | 自分の経験を生かせる仕事 |
| 指定した場所・時間帯での勤務 | 通勤や家庭の事情に合う勤務 |
| すぐに仕事を任せられること | 入社後の教育やサポート |
| 募集条件の範囲での採用 | 生活を維持できる賃金と雇用の安定 |
例えば、未経験から挑戦したくても、求人が経験者に限られていれば応募は難しくなります。求人がある地域へ簡単に引っ越せない人もいます。
また、仕事が見つかっても、給料や勤務時間の条件が合わなければ、長く働き続けることは難しいでしょう。
厚生労働省の2025年版労働経済白書も、社会インフラに関わる分野の人材確保について、賃金をはじめ、技能や経験に応じた待遇の改善が重要だとしています。mhlw.go.jp
人手不足への対応には、採用の入口を広げることと、働き続けられる条件を整えることの両方が必要です。
氷河期世代への就職支援でも、本人の経験をどう評価するか、足りない技能をどう身につけてもらうかまで考えることが、企業と働き手の双方に役立つのではないでしょうか。
雇用の不安定さは、結婚や住まいの選択にもつながる
仕事の話は、職場の中だけで完結しません。
毎月の収入に見通しが立つか。数年後も働き続けられそうか。生活費を払った後に、どれくらいお金が残るか。
こうした条件は、結婚や子育て、住宅購入を考えるときにも関わってきます。
将来を考えたくても、まず今の生活を維持することが優先になる。もう少し仕事が落ち着いてから、もう少し貯金ができてから、と判断を先送りすることもあるでしょう。
国立社会保障・人口問題研究所の2021年の出生動向基本調査では、理想の数の子どもを持たない理由として、子育てや教育の費用負担を挙げる回答が最も多くなっています。www.ipss.go.jp
少子化にはさまざまな背景があります。この調査だけで、氷河期世代の雇用と少子化の関係を証明できるわけではありません。
ただ、雇用や収入の安定は、家庭を築きたい人が将来を考えるための土台になると思います。
結婚しないことや、子どもを持たないことを選ぶ人もいます。大切なのは、希望する人が経済的な不安から選択を諦めなくて済むことではないでしょうか。
40代、50代になっても、就職した時代の影響は残る
氷河期世代の中には、転職や経験の積み重ねによって、仕事や収入が安定した人もいます。ずっと同じ状況にいる世代ではありません。
それでも、生活を整えられた時期が遅くなれば、その後の人生設計にも違いが出ます。
20代から貯金を始められた人と、40代になって余裕が出てきた人では、老後までに準備できる時間が違います。
住まいを買う時期が変われば、購入価格やローンの条件も変わります。住宅購入を支える制度にも、所得や床面積などの要件があり、自分が使えるかを確認する必要があります。
また、老齢厚生年金は、加入期間や現役時代の報酬などに応じて計算されます。低い賃金で働いた期間や、厚生年金に加入していなかった期間の影響が、老後にも残る場合があります。www.nenkin.go.jp
もちろん、同じ世代でも事情は大きく異なります。
私が気になるのは、今の収入や雇用形態だけでは、その人が生活を整えるまでにかかった時間までは見えないことです。
働き方が改善することは大切です。その変化が、住まいや老後の安心にもつながっているのか。そこまで見ることで、支援の課題も分かりやすくなると思います。
若い世代の待遇改善と、中堅世代への配慮を両立したい
人手不足を背景に、企業が採用条件や働き方を見直すことには期待しています。
これから働き始める人が、安心して仕事を覚え、生活を築いていける環境は必要です。
氷河期世代として当時との違いを感じることはあっても、若い人が同じ苦労をする必要はありません。
一方で、新しく入る人の条件を改善するときには、すでに働いている人の待遇や負担にも目を向けてほしいと思います。
長年の経験が給料に反映されているか。新人の指導が一部の社員に集中していないか。親の介護など、生活の変化があっても働き続けられるか。
新しく人を採ることと、今いる人が安心して働けることは、つながっています。
若手、中堅、ベテランのそれぞれが働き続けやすい職場をつくることが、人材の定着にもつながるのではないでしょうか。
まとめ|人手不足は、働く人の暮らしと一緒に考えたい
昔の就職難と、今の人手不足。その間には、人口構成の変化だけでなく、企業の採用や育成、必要とされる仕事、働き手が求める条件の変化があります。
就職氷河期世代の経験も、その流れの一部です。
就職した時代によって、その後の経験の積み方や、生活を整える時期が変わる。そう考えると、雇用の問題は、思っていた以上に長く人生に関わるものだと感じます。
私としては、仕事があるかどうかに加えて、その仕事で生活を築き、将来を考えられるかに関心があります。
人手不足が、採用人数を増やすだけでなく、賃金や育成、働き方を見直すきっかけになればいい。
そして、その変化が、これから働く若い人にも、長く働いてきた中堅世代にも届くことを期待しています。


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