「単身者は高齢になると賃貸住宅を借りられなくなる」
そんな話を聞いたことがある人は多いと思います。
賃貸派と持ち家派の議論では、「老後も賃貸で問題ない」「必要に応じて住み替えられることが賃貸のメリット」といわれます。
しかし、本当に70歳や80歳になってから、希望する部屋を借りられるのでしょうか。
正直なところ、私が大家だったとしても、身寄りのない単身高齢者、特に男性に部屋を貸すことには不安を感じると思います。
室内で亡くなって発見が遅れた場合、特殊清掃や残置物の処分が必要になり、次の入居者が決まりにくくなる可能性もあります。家賃をきちんと払える資産があるかだけでは判断できない問題です。
この記事では、高齢の単身者が賃貸住宅を借りにくい実態、大家側が不安を感じる理由、国の対策、持ち家を購入すべきか、そして現実的な老後の住まい対策について考えます。
高齢になっても賃貸は借りられるが、選択肢は少なくなる
賃貸借契約には「65歳以上は契約できない」といった法律上の年齢制限はありません。
したがって、70歳や80歳でも賃貸住宅を借りることはできます。
ただし、実際の入居審査では年齢、収入、健康状態、緊急連絡先、保証会社の審査、家族や支援者の有無などが確認されます。若い頃と同じように、好きな物件を自由に選べるとは限りません。
注意したいのは、次の2つは状況が大きく異なるということです。
- 若いうちに契約した賃貸住宅にそのまま住み続ける
- 65歳や70歳を過ぎてから新しい賃貸住宅を探す
普通借家契約の場合、貸主が契約更新を拒否するには「正当事由」が必要です。入居者が高齢になったという理由だけで、突然追い出せるわけではありません。国土交通省の定期建物賃貸借Q&Aでも、普通借家では正当事由がない限り貸主から更新を拒絶できないと説明されています。
問題になりやすいのは、高齢になってから転居を必要とするケースです。
建物の取り壊し、家賃の値上げ、階段の上り下りが難しくなった、病院や家族の近くへ移りたいといった理由で住み替えようとしても、新規契約では改めて入居審査を受けなければなりません。
このとき、年齢が大きな壁になることがあります。
実際に高齢者はどのくらい入居を断られているのか
高齢者向けの賃貸住宅を扱うR65不動産が2025年に、65歳を超えてから部屋を探した経験のある500人を調査したところ、42.8%が部屋探しに「苦労した」と回答しています。
さらに、30.4%は年齢を理由に入居を断られた経験がありました。「候補となる物件が少なかった」という回答も52.8%に達しています。
国の統計ではなく民間企業による調査なので、そのまま全国の高齢者全体を表す数字とはいえません。それでも、実際の部屋探しで年齢が障壁になっていることを示す一例です。R65不動産「高齢者の住宅難民問題に関する実態調査」
関西テレビが紹介した事例では、80代の男性が娘の近くへ引っ越そうとしたものの、資産があり、娘が毎日訪問できる状況でも審査に通りませんでした。
また、持ち家を売却して息子の近くへ引っ越そうとした高齢の医師が、年齢を理由に断られ続け、部屋が決まるまで3か月かかった事例も紹介されています。関西テレビ「高齢者お断りの賃貸住宅」
つまり、「お金があれば必ず借りられる」「家族が近くにいれば大丈夫」とも言い切れないのが現状です。
なぜ大家は単身高齢者に貸したくないのか
大家が心配しているのは、単に高齢者が嫌いだからではありません。
国土交通省の調査では、高齢者に対して約7割の大家が何らかの入居拒否感を持っていました。高齢者の入居を制限する最大の理由は「居室内での死亡事故等に対する不安」で、約9割を占めています。国土交通省「住宅確保要配慮者に対する居住支援機能等のあり方」
大家側が懸念する主な問題は次のとおりです。
- 室内で亡くなり、発見が遅れる
- 特殊清掃や原状回復に費用がかかる
- 次の入居者に告知が必要になる可能性がある
- 賃貸借契約の解除や残置物処分がすぐにできない
- 認知症などによって家賃の支払いや近隣対応が難しくなる
- 緊急連絡先や相続人と連絡が取れない
特に厄介なのが残置物です。
入居者が亡くなっても、大家が勝手に契約を終了させ、室内に残された家具や家財を処分できるわけではありません。賃借権や残置物の所有権は相続の対象になるため、相続人が分からない場合には契約解除や処分が長期化することがあります。
単身の高齢男性は特に不利なのか
「単身高齢者の中でも、男性には貸したくない」と考える大家がいても不思議ではありません。
日本少額短期保険協会の「第10回孤独死現状レポート」では、賃貸住宅における孤独死の累積事例の83.3%が男性でした。賃貸住宅の男女居住比率を考慮しても、男性の発生が多いと分析されています。日本少額短期保険協会「第10回孤独死現状レポート」
ただし、この統計は「男性の入居を断ることが正しい」と示すものではありません。
本当に重要なのは性別や年齢だけではなく、定期的な見守りがあるか、緊急時に連絡できる人がいるか、死後の契約解除や残置物処理について準備されているかです。
これらの仕組みが整えば、大家側のリスクはかなり小さくできます。
国も単身高齢者の住宅問題に対策を始めている
単身高齢者世帯は2030年に900万世帯近くまで増えると見込まれています。
高齢者を一律に断っていては賃貸住宅そのものが成り立ちにくくなるため、2025年10月に改正住宅セーフティネット法が施行されました。
主な対策は次のとおりです。
居住サポート住宅の認定制度
居住支援法人や管理会社などが、安否確認、見守り、福祉サービスへの取り次ぎを行う住宅です。
例えば、人感センサーなどによる安否確認と定期的な訪問を組み合わせ、異常があった場合に早く対応できるようにします。
入居者の安全だけでなく、室内で亡くなった場合の発見が遅れるリスクを減らせるため、大家にとってもメリットがあります。
居住支援法人による入居支援
都道府県から指定を受けた居住支援法人が、住宅探し、契約手続き、見守り、生活相談などを支援します。
身寄りがない、保証人を頼める人がいないといった場合でも、通常の不動産会社とは異なるルートで住宅を探せる可能性があります。
残置物処理への対応
改正法では、居住支援法人の業務に、入居者からの委託に基づく死亡後の残置物処理が追加されました。
また、国土交通省と法務省は、死亡後の賃貸借契約解除や残置物処理について、あらかじめ第三者へ委任するためのモデル契約条項を公開しています。
高齢者が利用しやすい家賃保証会社
住宅確保要配慮者が利用しやすい家賃債務保証業者を国が認定する制度も設けられました。
家賃滞納、保証人、死亡後の処理といった大家の不安を、保証会社や居住支援法人が引き受ける方向へ制度が変わりつつあります。
改正内容は、国土交通省「住宅セーフティネット法等の一部を改正する法律について」で確認できます。
ただし、制度ができたからといって、すべての大家が高齢者を受け入れるわけではありません。
国は居住サポート住宅を施行後10年間で10万戸供給する目標を掲げていますが、単身高齢者世帯が900万世帯近くに達する見込みであることを考えると、まだ十分な規模とはいえません。
老後に備えて家を買っておくべきなのか
老後の住まいを確保するという点では、持ち家は非常に強い選択肢です。
住宅ローンを完済していれば、他人から入居審査を受ける必要がなく、大家の都合で契約を断られることもありません。
特に単身者にとって、持ち家は単なる資産ではありません。
「高齢になっても住む場所を自分で決められる権利」を確保する意味があります。
一方で、「高齢になったら賃貸を借りにくいから」という理由だけで、無理な住宅ローンを組むのは危険です。
持ち家にも次のようなリスクがあります。
- 管理費や修繕積立金、固定資産税がかかる
- 古いマンションでは修繕費が上昇する
- 建物や設備の老朽化に対応しなければならない
- 介護が必要になったとき、住み替えにくい
- 売却しにくい立地では資産価値が大きく下がる
- 戸建てでは階段や庭の管理が負担になる
したがって、「何でもいいから家を買えば安心」ではありません。
老後の住宅として購入するなら、駅や病院、スーパーへの行きやすさ、段差の少なさ、エレベーター、管理状態、修繕計画、将来の売却しやすさまで考える必要があります。
資金に余裕があり、長く住める物件を選べる人にとっては、持ち家は老後の住宅難民リスクを減らす有力な対策です。
一方、購入によって資金がほとんどなくなる人や、将来住む地域が決まっていない人は、無理に買う必要はありません。
賃貸で老後を迎えるなら、元気なうちに準備しておく
賃貸を選ぶ場合も、何も準備せずに70代を迎えるのと、早めに住宅ルートを確保しておくのとでは大きな差があります。
60代前半までに長く住める物件へ移る
70代、80代になってから住み替えるより、働いていて収入証明を出しやすい時期に、老後まで住める物件へ移っておく方が現実的です。
普通借家契約か定期借家契約かも確認しておきましょう。定期借家契約は期間満了で終了するため、老後の住まいとしては再契約の条件に注意が必要です。
UR賃貸住宅を選択肢に入れる
UR賃貸住宅は、連帯保証人と家賃保証会社が原則不要です。
一定の収入基準がありますが、家賃の前払いや貯蓄額による基準を利用できる場合もあります。単身者も申込み可能で、年金も継続収入として扱われます。UR賃貸住宅「お申込み資格」
ただし、URは全国どこにでもあるわけではなく、希望する地域や間取りに空室があるとは限りません。
高齢者歓迎物件やセーフティネット住宅を探す
最初から高齢者の入居を受け入れている物件を探す方が、一般の賃貸物件を一件ずつ申し込むより効率的です。
自治体の住宅相談窓口、居住支援協議会、居住支援法人、高齢者向け住宅を専門に扱う不動産会社などへ早めに相談することが重要です。
見守りと死後事務の準備をする
緊急連絡先がいない場合でも、見守りサービスや死後事務委任契約を利用することで、大家の不安を軽減できます。
準備しておきたいのは次の項目です。
- 定期的な安否確認
- 緊急連絡先または支援法人
- 家賃保証
- 入院時の連絡先
- 死亡後の賃貸借契約解除
- 家具や家財の処分方法
- ペットを飼っている場合の引き取り先
単に預貯金残高を見せるだけでなく、「万一の際にも大家を困らせない仕組み」を用意することが重要です。
結局、単身者はどうすればいいのか
単身者が高齢になると、賃貸住宅をまったく借りられなくなるわけではありません。
しかし、選べる物件が減り、希望する場所や条件を諦めなければならない可能性は高くなります。
特に危険なのは、「賃貸ならいつでも自由に引っ越せる」と考え、何の準備もしないまま高齢になることです。
現実的な選択肢は、次の3つです。
- 無理のない価格で、老後まで住める家を購入する
- 収入があり元気なうちに、長期間住める賃貸住宅へ移る
- UR、セーフティネット住宅、居住支援法人などの利用方法を調べておく
私自身は、資金に無理がなく、長く住める物件を選べるのであれば、単身者ほど持ち家を確保する意味は大きいと考えます。
持ち家には維持費や老朽化の問題があります。それでも、70代や80代になってから大家や保証会社の審査を受けずに済む安心感は小さくありません。
ただし、家を買うことだけが正解ではありません。
本当に必要なのは、「今の家を出なければならなくなったとき、次にどこへ住むのか」を元気なうちに考えておくことです。
老後の住まいは、年を取ってから探すのでは遅い場合があります。
持ち家でも賃貸でも、住む場所、費用、見守り、保証人、死後の手続きまで含めて準備しておくことが、単身者にとって最も現実的な対策ではないでしょうか。



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