75歳以上の医療費に金融所得を反映へ|2029年8月方針と現役世代への影響

投資

「株式の配当や売却益があると、高齢者の医療保険料や病院での負担が増える」

そんな制度改正が進んでいます。

厚生労働省は、後期高齢者医療制度で金融所得を負担判定に反映する新たな仕組みについて、2029年8月の開始を目指す方針と報じられています。

年金が少なくても投資から十分な収入を得ている人に、負担能力に応じた支払いを求める。考え方は理解できます。

ただ、「今の高齢者の話だから、自分には関係ない」とは言い切れません。今の40代・50代も、将来75歳になれば対象になり得ます。

この記事では、決まった内容と未確定の部分、家計への影響、就職氷河期世代や現役世代にとっての論点を整理します。

※2026年10月時点の公表資料・報道に基づきます。制度の説明と、筆者の意見・将来への見方を分けて記載しています。

金融所得の反映は決定事項?法律は成立、2029年8月は開始方針

まず、金融所得を後期高齢者医療の保険料や窓口負担の判定に反映するための改正法は、すでに成立しています。

「健康保険法等の一部を改正する法律」は、2026年5月29日に成立し、6月5日に公布されました。

一方、2029年8月という具体的な開始時期は、現時点では厚労省の方針として報じられている段階です。法律の枠組みが成立したことと、具体的な反映開始日の確定は分けて考える必要があります。

確認したいこと 2026年10月15日時点の状況
金融所得を保険料・窓口負担の判定に反映する改正 法律は成立済み
法律で定める施行時期の枠組み 関連規定は公布後5年以内に政令で定める日
2029年8月の反映開始 厚労省の方針として報道
75歳未満や全世代への一律拡大 今回の改正では決まっていない

厚労省の部会一覧では、10月16日の医療保険部会で「金融所得の公平な反映のスケジュール」が報告される予定です。この記事の確認日時点では、その会議はまだ開催されていません。

したがって、現段階では「制度改正は成立済み、2029年8月開始の方針」と書くのが適切です。

どんな改正?確定申告しない配当・売却益も負担判定に含める

今回の中心は、確定申告するかどうかで医療の負担が変わる仕組みの見直しです。

現在、源泉徴収ありの特定口座などで得た上場株式の配当や譲渡益は、確定申告をしなければ、後期高齢者医療の保険料や窓口負担の判定に原則として反映されません。

証券口座で税金が引かれていても、市町村が医療保険の判定に使う所得情報には含まれないためです。

例えば、年金も配当も同じ金額の2人がいても、一方が確定申告し、もう一方が申告不要を選ぶと、医療の負担に差が生じる場合があります。

改正後は、金融機関などが提出する法定調書を活用し、申告の有無に左右されず、対象の金融所得を把握する仕組みになります。

なお、申告不要制度を適法に利用してきた人が、脱税していたという話ではありません。これまでの制度上の扱いを変更する改正です。

対象は後期高齢者医療制度の加入者で、原則75歳以上です。一定の障害について認定を受けた65~74歳の加入者もいるため、厳密には年齢だけで対象が決まるわけではありません。

「金融資産への課税」「金融所得の増税」とはどう違う?

預金や株式の残高に直接負担をかける改正ではない

今回の改正で区別したいのが、金融資産と金融所得です。

金融資産は、保有している預金や株式、投資信託など。金融所得は、配当や売却によって得た利益などです。

例 今回の改正での考え方
株式を3,000万円分保有している 残高そのものを今回の新たな算定対象にする仕組みではない
株価が上がり、含み益がある 含み益の段階では通常、譲渡益は実現していない
課税口座で配当を受け取る 金融所得として負担判定に関係する
課税口座で株式を売り、利益を確定する 譲渡益が負担判定に関係する

厚労省の参考資料でも、金融資産そのものと、今回新たに反映する金融所得は区別されています。

そのため、「資産があるのに医療費が安い」という問題を、残高まで含めてすべて解消する改正ではありません。

金融所得には、すでに税金がかかっている

課税口座で得た配当や譲渡益には、現在も原則として税金がかかっています。

今回は、その税率を引き上げる改正ではありません。対象の金融所得を、医療保険料や窓口負担を決める際にも使う改正です。

ただし、税金を納めたうえで保険料なども増える人にとって、手元に残るお金が減ることは確かです。

「金融所得課税の始まり」という表現よりも、金融所得を社会保障の負担判定に広く反映する動きと捉える方が、今回の内容を正確に表せます。

影響はどれくらい?保険料と窓口負担の両方が増える場合も

厚労省は、現行制度で確定申告の有無によって生じる差の具体例を示しています。

夫婦ともに後期高齢者で、収入が次の場合です。

  • 本人:年金230万円+金融所得50万円
  • 配偶者:基礎年金83万円
項目 金融所得を申告しない場合 金融所得を申告する場合
本人の年間保険料 118,928円 169,978円
窓口負担割合 1割 2割

この例では、年間保険料に51,050円の差があり、窓口負担割合にも差が生じています。

これは現行制度の不公平を説明するための試算で、2029年の負担額を確定したものではありません。 保険料は2024・2025年度の全国平均の均等割額・所得割率を使って計算されています。

また、金融所得がある人全員の窓口負担が、一律に2割や3割になるわけではありません。他の所得や世帯の状況、判定基準によります。

1割から2割になれば、同じ保険診療の医療費に対する計算上の自己負担は2倍になります。ただし、高額療養費制度による上限なども関係するため、年間の実際の支払額まで必ず2倍になるとは限りません。

NISAも対象になる?非課税の利益は対象外

厚労省は、今回の見直しについて、非課税のNISAは対象外と明記しています。

課税口座での運用益と、NISAで非課税となる運用益は区別する必要があります。

ただし、「投資から得る収入が多くても、すべてNISAで対応できる」というわけではありません。また、この改正を理由に、保有商品を急いで売却する必要があるとも限りません。

確認したいのは、自分の老後の生活費のうち、どれくらいを年金で賄い、どれくらいを課税口座の配当や売却で補う予定なのか、という点です。

例えば、100万円で購入した商品を150万円で売った場合、売却代金150万円すべてが利益になるわけではありません。費用等を無視すれば、利益は50万円です。

老後の資産の取り崩しでは、受け取る現金の額と、所得として扱われる利益の額を分けて考える必要があります。実際の判定では、損益通算などの詳細な取扱いも確認したいところです。

今の40代・50代も、75歳になれば対象になるのか

今回の改正は、「現在75歳以上の人だけ」を対象に、その世代がいなくなれば終了する仕組みとして説明されているものではありません。

制度が将来も同じ形で続けば、今の40代・50代も、後期高齢者医療制度に加入した段階で対象になり得ます。これは制度の仕組みから考えられることで、数十年後の条件まで確定しているという意味ではありません。

つまり、**「今の高齢者に応分の負担を求める改革」であると同時に、「自分たちの老後の負担にもつながる改革」**です。

ここに、現役世代として気になる点があります。

就職氷河期世代の資産形成の難しさは、別の問題として残る

就職難や不安定な雇用で、思うように収入や年金加入実績を積めなかった人がいます。政府も、就職氷河期世代の就労だけでなく、将来を見据えた支援を課題として扱っています。

年金だけでは不安だから、生活を切り詰め、投資で老後資金を準備する。その運用益によって将来の医療負担も増えると知れば、「自分で備えても、結局負担が増えるのか」と感じる人はいるはずです。

私は、同じ所得なら申告の有無で負担が変わらないようにすることには、合理性があると考えます。

ただ、それだけで世代間の公平性まで解決したとは言えません。

就職時の環境や賃金、年金の見込み額、資産形成に使えた期間など、世代によって条件は異なります。制度変更を重ねるなら、そうした違いも踏まえ、老後の生活設計への影響を説明してほしいところです。

年齢だけで、豊かさや苦労は決まらない

一方、現在75歳以上の人が、全員バブルの恩恵を受けて豊かに暮らしているわけでもありません。同様に、就職氷河期世代の経済状況も一様ではありません。

特定の世代を一律に優遇・不利にするよりも、年金や所得の少ない人、必要な治療を続けている人の生活を守れるかが重要だと思います。

問いたいのは、世代同士で負担を押し付け合うことよりも、同じ負担能力には同じ負担を求めながら、生活に余裕のない人を守れる制度になっているかという点です。

今後、70歳・65歳・全世代へ拡大する可能性は?

将来の拡大は、可能性として考える必要があります。ただし、全世代への適用が決まったわけではありません。

厚労省の医療保険部会では、金融所得を反映する対象として国民健康保険も議論されており、「まずは後期高齢者医療制度から」という整理がされています。

そのため、他の制度への拡大を心配することには、一定の根拠があります。

ただ、今後の変更は「75歳から70歳、65歳へ」と、年齢の線を順番に下げる形とは限りません。加入している医療保険の違いが重要だからです。

国民健康保険は所得をもとに保険料を計算しますが、会社員などが加入する健康保険では、原則として給与・賞与をもとに計算します。金融所得を反映する場合、制度間の整合性も課題になります。

「今後必ず、全世代の投資利益に追加負担がかかる」と断定することはできません。それでも、後期高齢者だけの話として関心を失ってよいテーマではないと思います。

給付金の判定や介護保険も、同時に変わるのか

今回確認した改正をもって、住民税非課税世帯向けの給付金や介護保険など、あらゆる制度の判定が一斉に変わるとは言えません。

制度ごとに、何を所得や資産として判定するかというルールが異なります。

「金融資産が多いのに給付金を受け取れるのは公平なのか」という問題意識と、今回の医療保険の改正は関連しますが、同じ改正ですべてが解決されるわけではありません。

まとめ|公平な負担と、老後の備えへの納得感は両方必要

後期高齢者医療に金融所得を反映する改正法は、すでに成立しています。2029年8月からの反映開始が厚労省の方針として報じられていますが、具体的な日程については今後の正式な公表を確認する必要があります。

今回の中心は、確定申告をしなかった配当や譲渡益も、保険料や窓口負担の判定に含めることです。資産残高への直接的な課税や、金融所得の税率引き上げではなく、非課税のNISAは対象外とされています。

同じ所得があるのに、申告の有無で医療の負担が変わる。その違いを見直すことには、理解できる部分があります。

しかし、現役世代にとっては、自分たちの老後にも関係する話です。

自助による備えを求めるのであれば、制度変更によって老後の手取りや医療負担がどう変わるのかも、分かりやすく示してほしい。公平性を掲げるなら、所得の把握だけでなく、年金の少ない人や長期療養が必要な人の暮らしまで含めて考える必要があると思います。

コメント