東京アプリ1万1000円で提訴、「持たない自由」と給付の公平性をどう考えるか

雑記

東京都の「東京アプリ」を利用した1万1000円相当のポイント付与を巡り、スマートフォンやマイナンバーカードを持たない都民らが都を提訴しました。

報道を読んで、「必要な手続きは受け入れない。でもポイントは同じように欲しいという要求に、行政はどこまで応えるべきなのか」と感じた人もいるでしょう。

私も、デジタル化を進めるたびに別の仕組みを際限なく求められるなら、行政の効率化は進まないと考えます。

ただし、操作の支援が必要な人、端末を買う余裕がない人、自分の意思でカードを取得しない人では、事情が異なります。今回の問題は、その違いを整理すると見えやすくなります。

※制度の情報は2026年10月29日時点。訴訟に関する記述は毎日新聞の10月28日付報道に基づきます。

東京アプリのポイントを巡り、何が起きたのか

毎日新聞によると、都民13人が2026年10月28日、東京都を相手に、1人当たり約11万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴しました。

原告側は、スマホやマイナンバーカードがないとポイントを受け取れない仕組みが、行政サービスを等しく受ける権利などに反すると主張。窓口での申請や現金給付を求めています。

ここで押さえたいのは、提訴されたことと、制度が違法と認められたことは別だという点です。報道は原告側の主張を伝えたものであり、それ自体が裁判所の判断ではありません。

また、ポイント相当額は1万1000円ですが、賠償請求額は約11万円です。提示された報道では請求の詳しい内訳までは分からないため、金額の差だけで訴訟の目的を決めつけることも避けたいところです。

この事業は「生活支援」だけを目的にしていない

東京都の公式発表では、生活応援事業には次の二つの目的があります。

  • 東京アプリの普及促進
  • 物価高騰などを踏まえた都民の生活支援

通常の参加には、対応スマートフォン、東京アプリなどのダウンロード、有効なマイナンバーカードによる本人確認が必要です。対象は、東京都に住民登録がある15歳以上の人です。

つまり、都は単にお金を配るだけでなく、行政とスマホでつながる仕組みを広げようとしています。

アプリの利用促進を目的に含める以上、アプリを使うことを参加条件にする理由は理解できます。利用しない人にも無条件で現金を渡すなら、普及促進という狙いは弱まるでしょう。

一方で、都自身が生活支援も掲げているため、「生活に困っていても端末がなければ届かないのか」という疑問も残ります。

この二つの目的を一つの事業に組み合わせたことが、今回の対立の背景にあると考えます。

「持たない自由」があれば、別方式の給付も当然なのか

マイナンバーカードの取得は義務ではありません。取得しないという選択も認められています。

しかし、そこから直ちに「カードを使う事業について、行政は必ず別の受け取り方を用意しなければならない」と結論づけられるのでしょうか。

私は、その要求には慎重であるべきだと考えます。

利用条件に合理的な理由があり、内容が明確に示され、参加する機会も確保されているなら、その条件を自ら受け入れない選択に対して、行政がどこまで追加対応を負担するのかという問題が生じます。

もちろん、公費による事業である以上、条件が過度な排除につながっていないかという検討は必要です。「条件を満たさないから仕方ない」の一言で、すべて片付くわけでもありません。

争点は、カード取得が任意かどうかに加え、この事業の目的に照らして、その条件を設けることが妥当なのかというところにあります。

「任意だから、別方式の給付も当然」とする説明だけでは、行政全体の負担まで含めた議論として不十分ではないでしょうか。

操作できない人への支援と、利用を断る人への対応

今回の報道では、スマホを持たない事情やカードを取得しない理由が一緒に語られています。しかし、対応を考える際には違いを見る必要があります。

状況 検討したい対応
操作方法が分からない 対面での説明、操作支援、分かりやすい画面
障害や認知機能の問題で操作が難しい 事情に応じた代理申請など
経済的な事情で対応端末を用意できない 参加の障壁と支援方法の検討
制度への反対から利用しない 不安への説明と、追加対応の範囲の検討

上の表は、事情に応じて考えられる対応を整理したものです。原告13人全員がどの事情に当たるかは、提示された報道だけでは判断できません。

支援を受ければ利用できる人への手助けは、デジタル化を広げるためにも必要です。その一方で、利用できる条件が整っていても自ら断る場合まで、同じ対応を求めることには疑問が残ります。

行政に求めたいのは、事情に応じた支援と、どこまで対応するかの説明です。

東京都も代理申請を用意しているが、万能ではない

東京都は、2026年11月4日午前10時から、一定の要件を満たす人の代理申請を始めると発表しています。

対象は、障害者手帳を持つ人や要介護・要支援認定を受けている人。代理人の範囲にも要件があり、本人と代理人の双方についてマイナンバーカードによる本人確認が必要です。

したがって、「操作が難しい人への対応が何もない」という理解は正確ではありません。一方で、この仕組みだけで、カードを持たない人の問題まで解決するわけでもありません。

また、都の発表では、代理申請で付与されたポイントを利用できる時期は別途案内するとされています。申請開始と、実際に使えるようになる時期は区別して確認する必要があります。

「国に管理されたくない」という不安は、具体的に考えたい

報道では、国に管理されたくないという理由でカードを作っていない原告の声も紹介されています。

個人情報の扱いを不安に思うこと自体は理解できます。ただ、マイナンバーという番号と、マイナンバーカードという本人確認の道具は区別したいところです。

デジタル庁によると、マイナンバーは住民票を持つすべての人に付番される番号です。カードを作らなければ、番号制度の対象から外れるわけではありません。

一方で、番号がすでにあることだけを理由に、カード利用への懸念をすべて否定するのも飛躍です。

何の情報が取得されるのか、何に使われるのか、どのように守られるのか。行政には、その説明が求められます。利用する側も、漠然とした不安だけで判断せず、具体的な仕組みを確認することが大切でしょう。

別方式を増やすなら、追加コストも説明してほしい

窓口申請や現金給付を設ければ、受け取れる人が増える可能性があります。

ただし、別方式には受付、本人確認、重複受給の防止、支払い管理などの業務が必要です。仕組みを並行して維持する費用や職員の負担も検討しなければなりません。

今回、現金給付を追加した場合の具体的な費用は、確認した資料からは分かりません。そのため、「必ず莫大な無駄になる」とは断定できません。

それでも、追加対応を求めるなら、誰にどれだけ届くのか、いくらかかるのかまで議論するべきです。

これは給付の公平性に加えて、限られた税金と人員をどう使うかという公平性の問題でもあります。

支援を整えながら、行政のデジタル化を進めてほしい

私は、行政がデジタル化を進めるたびに、すべての人の希望に合わせた別方式を用意し続けるべきだとは思いません。手続きの簡素化や効率化を進めるためには、新しい仕組みに移っていく必要があります。

同時に、行政には、利用が難しい人を支える役割と、公費による事業の条件を説明する責任があります。

今回の訴訟で問いたいのは、原告の年齢や人格ではありません。利用しないという選択に、行政はどこまで費用をかけて応えるべきなのか。そして、生活支援とアプリ普及を一緒に行う設計は適切だったのか、ということです。

必要な支援は整える。そのうえで、参加条件を自ら拒む場合の追加対応には限度を設ける。 私は、この考え方を基本に制度を改善してほしいと思います。

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