JAL・ANAにとって理想の顧客とは?飛行機以外のサービスを広げる本当の狙い

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JALやANAは、飛行機に乗る人だけでなく、カード、スマホ決済、通販、金融などのサービスを日常的に利用する人を増やそうとしています。

なぜ航空会社が、飛行機以外の事業に力を入れるのでしょうか。

結論からいえば、両社が求めているのは、搭乗から日常の支払いまで幅広いサービスを利用し、長く付き合ってくれる顧客です。

JAL・ANAが非航空サービスを強化する狙いと、両社にとっての「理想の顧客」を解説します。

JAL・ANAにとって「理想の顧客」はどんな人か

航空会社から見た顧客の価値は、単純な搭乗回数だけでは決まりません。

たとえば年に何度も出張し、普通運賃や上位クラスを利用する人は、今でも非常に価値の高い顧客です。航空券から大きな収益を得られるため、このような顧客が重要でなくなることはありません。

一方、年に数回しか乗らなくても、次のような行動をする人は、航空会社にとって長期的な価値があります。

  • 航空券を毎回同じ航空会社で購入する
  • 日常の支払いにJALカード、ANAカード、JAL Pay、ANA Payを使う
  • 旅行商品、ホテル、レンタカー、通販、ふるさと納税をグループ経由で利用する
  • 銀行、住宅ローン、資産運用などの提携金融サービスを利用する
  • マイルやステイタスを意識し、他社へ乗り換えにくくなる
  • 家族も同じマイレージ経済圏に参加する

航空会社が見ているのは、「今回の航空券でいくら使ったか」だけではありません。

一人の顧客が今後10年、20年にわたってグループ全体にもたらす価値です。マーケティングでは、これをLTV(顧客生涯価値)と呼びます。

極端にいえば、一度だけ高額な国際線航空券を買って二度と利用しない人より、航空券、カード、決済、旅行、通販を継続利用する人のほうが、生涯を通じた利益が大きくなる可能性があります。

なぜ「飛行機に乗るだけの顧客」では足りないのか

飛行機は毎日利用する商品ではない

多くの人にとって、飛行機に乗るのは年に数回です。

航空会社が顧客と接触できるのは、航空券を検索するとき、予約するとき、搭乗するときに限られます。

しかし、カードやスマホ決済なら日常的に使われます。通販、通信、電気、銀行なども、顧客との接点が毎月発生します。

年に数回だった接点を、月に数回、場合によっては毎日に増やせることが、非航空サービスの大きな意味です。

航空事業は景気や外部環境の影響を受けやすい

航空会社は、機材、人員、整備、空港設備など大きな固定費を抱えています。

その一方で、感染症、景気後退、燃油価格、為替、国際情勢、自然災害など、自社だけでは制御できない要因で需要が急減します。

コロナ禍では、旅客需要が短期間で消える航空事業の弱さがはっきり表れました。

そこで、決済、通販、金融、旅行関連サービスなど、飛行機が飛ばない時期にも収益を生み得る事業を育てることが、経営の安定につながります。

非航空事業だけで航空事業を置き換えられるわけではありません。しかし、収益源を複数持つことで、航空需要の変動を少しでも和らげられます。

航空券は価格比較されやすい

同じ区間なら、利用者は運賃や時間を比較してJALとANAを選びます。

差が小さければ、安いほうへ移る人も少なくありません。

ところが、カード利用でマイルをため、ステイタスを持ち、銀行や通販まで利用していると、「今回は少し高くてもJALにしよう」「マイルをまとめたいからANAにしよう」という判断が起きます。

つまり非航空サービスは、それ自体で収益を得るだけでなく、本業の航空券を再び選んでもらうための仕組みでもあります。

金融・決済サービスを強化する5つの狙い

1.飛行機に乗らない日にも収益を得る

カードやスマホ決済が使われると、カード会社、決済事業者、提携先を含む仕組みの中で手数料などの収益が生まれます。

通販や旅行予約では販売手数料、提携金融サービスでは送客や提携に伴う収益が期待できます。

ただし、JALやANAが銀行サービスを案内しているからといって、預金金利や住宅ローン利息がそのまま航空会社の利益になるわけではありません。

実際の銀行業務やカード発行を担う提携企業があり、航空会社側の収益構造はサービスごとに異なります。

2.顧客との接点を日常生活まで広げる

航空券の購入履歴だけでは、その人が次にどこへ行きたいのか、何に関心があるのかを知る機会は限られます。

一方、顧客の同意と適切な管理を前提に、旅行、買い物、決済など複数のサービス利用を結び付けられれば、その人に合った旅行先、商品、キャンペーンを提案しやすくなります。

重要なのは、単に大量のデータを集めることではありません。

必要な人に必要な提案を行い、利用頻度と満足度を高めることです。

3.マイルを使って顧客を経済圏にとどめる

マイルは、航空会社と顧客をつなぐ強力な道具です。

航空会社は、提携企業へマイルを販売したり、サービス利用の特典としてマイルを付与したりします。

顧客は、もう少しで特典に届く、ステイタスを維持したい、マイルを一社に集めたいと考え、同じ経済圏を選びやすくなります。

ためたマイルが特典航空券に使われれば、将来の旅行のきっかけにもなります。

日常の決済が旅行につながり、その旅行がさらにカードやホテルの利用を生む循環です。

4.自社の航空券を選ぶ理由を増やす

決済や生活サービスでためたマイル、長年積み上げたステイタス、会員限定特典は、他社へ移る際の心理的なハードルになります。

これは強制的な囲い込みではありません。顧客にとって十分なメリットがあれば、結果として利用が継続するという関係です。

航空会社にとっては、広告費をかけて毎回新規客を集めるより、既存顧客に繰り返し選んでもらうほうが効率的です。

5.将来の旅行需要を育てる

現在は飛行機にあまり乗らない人でも、カード決済や通販でマイルをためていれば、マイルを使うために旅行を計画する可能性があります。

つまり非航空サービスは、今の売上を増やすだけでなく、将来の搭乗客を作る役割も持っています。

JALの戦略――「生涯」と「生活」を明確に結び付ける

JALの狙いが最も分かりやすく表れているのが、JAL Life Status プログラムです。

JALはこの制度を、搭乗やライフスタイルサービスの利用に応じてポイントがたまる「生涯実績プログラム」と説明しています。

Life Status ポイントには有効期限がなく、JALマイレージバンクを退会しない限り積み上がります。

対象は国内線・国際線の搭乗だけではありません。

2026年9月時点では、JALカード、JAL Pay、JAL NEOBANK、住宅ローン、資産運用、JAL Mall、ツアー、JAL Wellness & Travel、JALモバイル、JAL光、JALでんき、JALウォーター、JALガスなどが対象に含まれています。

ここから見えるのは、JALが欲しいのは「今年たくさん乗った人」だけではなく、長年にわたってJALと接点を持ち続ける人だということです。

従来のFLY ON プログラムが、その年の搭乗実績を評価する仕組みなのに対し、Life Status プログラムは、搭乗と日常サービスを合わせた生涯の関係を評価します。

JAL REPORT 2025では、JALマイレージバンク会員約4,000万人、JALカード会員356万人という顧客基盤が示されています。

この大きな会員基盤に航空券以外のサービスも利用してもらえれば、非航空収益を伸ばすだけでなく、次の搭乗にもつなげられます。

ANAの戦略――「飛ぶ」と「暮らす」を組み合わせる

ANAも同じ方向を目指していますが、制度の見せ方はJALと少し異なります。

ANAにはANAカード、ANA Pay、ANA Mall、ANAトラベラーズ、ANAのふるさと納税、提携金融サービスなどがあります。

公式サイトでも、航空券のほかに「ショッピング&ライフ」を大きな入口として設けています。

象徴的なのが、一部のプレミアムステイタスを、プレミアムポイント、対象ライフソリューションサービスの利用数、ANAカード・ANA Payの決済額という3条件の組み合わせで獲得できる制度です。

これは、搭乗だけでなく、ANAのサービスを生活の中で複数利用する人を優遇する仕組みです。

ANA Payは、日常の支払いでマイルをためるだけでなく、保有マイルをチャージして支払いに使うこともできます。

航空券以外にもマイルの出口を増やすことで、飛行機にあまり乗らない時期にもANAマイレージクラブとの関係を維持できます。

ANAにとっても、狙いは航空と非航空を別々に売ることではありません。

日常の決済や買い物でANAを意識してもらい、その関係を次の旅行と搭乗へ戻すことです。

JALとANAの違いはどこにあるのか

両社の基本戦略はよく似ています。

  • 航空券だけに依存しない収益源を増やす
  • マイルを中心に日常生活との接点を増やす
  • 決済・通販・旅行・金融の利用を次の搭乗につなげる
  • 顧客一人当たりの生涯価値を高める

違いを簡潔に表すなら、JALはLife Status ポイントで「生涯の利用実績」を見える化する戦略が目立ちます。

ANAは、プレミアムポイントに、サービス利用数とカード・ANA Pay決済額を組み合わせる戦略が特徴です。

制度設計は異なりますが、どちらも「飛行機に乗る日だけの関係」から「毎日の生活を含む関係」へ広げようとしている点は同じです。

航空会社にとって価値の高い顧客を整理すると

航空会社にとっての顧客の価値は、次のように整理できます。

  • 高単価で頻繁に搭乗する人
    航空事業に直接大きく貢献する最重要顧客
  • 搭乗し、カードや決済も使う人
    航空と非航空の両方に貢献する理想的な顧客
  • 搭乗は少ないが日常サービスを継続利用する人
    安定収益と将来の搭乗需要を生む顧客
  • セール時だけ最安値を選び、ほかのサービスを使わない人
    売上にはなるものの、継続的な関係は弱い顧客

したがって、「飛行機に乗る客より金融サービスを使う客のほうが大切」という単純な話ではありません。

最も理想的なのは、飛行機にも乗り、日常の決済や旅行関連サービスも利用し、長くブランドを選び続ける顧客です。

利用者にとっては得なのか

航空会社の経済圏にサービスをまとめると、マイルやステイタスを効率よく獲得できます。

普段の支出を変えずに特典が増えるなら、利用者にもメリットがあります。

ただし、航空会社の戦略に合わせて、不要なサービスまで契約する必要はありません。

  • 年会費や手数料に見合うか
  • 他社のカードや銀行より条件が良いか
  • マイルを実際に使い切れるか
  • ステイタスのためだけに余計な支出をしていないか
  • 特典や積算条件が変更されても納得できるか

これらを確認することが大切です。

航空会社にとって理想の顧客になることと、自分にとって得な利用者になることは同じではありません。

普段から使う決済やサービスを無理なく集約し、その結果としてマイルや特典が増える形が最も合理的です。

まとめ

JAL・ANAが目指しているのは、飛行機に乗るときだけ選ばれる会社ではありません。

カード、スマホ決済、通販、旅行、金融、生活サービスをマイルで結び、顧客との接点を日常生活まで広げようとしています。

その狙いは、非航空収益を増やすこと、航空需要の変動に強い経営にすること、顧客データを生かして提案を最適化すること、そして最終的に次の搭乗でも自社を選んでもらうことです。

JAL・ANAにとって理想の顧客は、「たくさん乗る人」だけではなく、「飛ぶ・払う・買う・旅する」を一つの経済圏に集め、長く付き合ってくれる人です。

Life Status ポイントやライフソリューションサービスは、単なる特典制度ではありません。

航空会社が、航空券販売中心のビジネスから「顧客の生活全体とつながるビジネス」へ変わろうとしていることを示す仕組みなのです。

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