民間の賃貸住宅で暮らす世帯の割合が、初めて3割を超えたというニュースがありました。
日本経済新聞が報じた2025年国勢調査の数字では、民間賃貸に住む世帯の割合は30.9%。持ち家に住む世帯の割合は60.7%だったそうです。
このニュースを見て、住宅価格の上昇だけでなく、今の日本で長期の生活設計をする難しさを感じました。物価が上がり、住宅ローンの金利も気になる。給料が増えても、暮らしが楽になった実感はなかなかありません。
結婚するか、子どもを持つか、どこで働くか。人生の形も一つではなくなっています。家を買うことを、以前と同じように「人生の当然の通過点」と考えるのは難しいのでしょう。
私自身は持ち家ですが、これから金利がどこまで上がるのか、という不安はあります。
ただ、このニュースを「日本の将来が不安だ」という話だけで終わらせたくありません。過去と今を見比べながら、変化の多い時代に、どんな住まいと暮らしを選べばよいのかを考えてみます。
「家を持たない」と「持ちたくても持てない」は違います
賃貸暮らしが増えたと聞くと、「家を買うお金がない人が増えた」と受け止めたくなります。
住宅価格が上がり、購入を見送る人がいることは、十分に考えられます。一方で、賃貸を選ぶ理由は経済的な事情だけではありません。
転職や転勤に合わせて移動したい人、家族構成がまだ決まっていない人、修繕や管理の負担を抱えたくない人。購入できる資金があっても、住み替えやすさを重視する人はいるでしょう。
自分に合うから買わないことと、買いたいのに買えないことは、同じではありません。
今回の世帯比率だけでは、それぞれがどれだけ増えたのかまでは分かりません。賃貸の増加をすべて「自由な選択」と説明するのも、すべて「生活の苦しさ」と説明するのも、実態を取りこぼしてしまいます。
そして30.9%は、民間賃貸に住む「世帯」の割合です。日本人の30.9%という意味でも、公営住宅や社宅を含めた賃貸全体の割合でもありません。
昔は誰もが家を買えたのでしょうか
持ち家率は、過去30年間もおおむね6割でした
「昔は普通に働けば家が買えた」という話を聞くことがあります。では、昔の日本は今よりもずっと持ち家が多かったのでしょうか。
総務省の住宅・土地統計調査で、全国の持ち家住宅率を見ると、次のようになっています。
| 調査年 | 持ち家住宅率 |
|---|---|
| 1993年 | 59.8% |
| 2003年 | 61.2% |
| 2013年 | 61.7% |
| 2023年 | 60.9% |
この調査では、持ち家住宅率は長く約6割で推移しています。「昔はほとんどの人が持ち家だったのに、今は持てなくなった」という単純な変化ではありません。
ただし、この表は住宅・土地統計調査の数字です。冒頭の国勢調査とは調査方法や集計対象が異なるため、2023年の60.9%と2025年の60.7%をつなげて、2年間の変化として比較することはできません。
また、全国平均が大きく動いていなくても、若い世代の買いやすさまで変わっていないとは限りません。持ち家率には相続した家に暮らす人も含まれます。高齢の持ち家世帯が多いことと、今から働いて家を買いやすいことは、別の話です。
昔にも、物価高や高金利はありました
過去がずっと穏やかだったわけでもありません。
1974年の全国の消費者物価上昇率は23.2%でした。オイルショックの時代には、現在とは桁の違う物価上昇が起きています。
住宅ローンについても、1990年には主要都市銀行の変動金利の店頭金利の中央値が年8.5%を記録しています。これは現在の優遇後の適用金利とそのまま比較できる数字ではありませんが、高い金利で住宅を買う時代があったことは分かります。
「昔は金利も物価も低く、安心して家を買えた」とは言えないのです。バブル崩壊後には、住宅価格の下落や雇用の不安もありました。
違いは「将来は今よりよくなる」と思える背景でしょう
一方、高度経済成長期には、今とは違う勢いがありました。内閣府の経済白書では、1955年から1972年までの実質経済成長率は平均9.3%とされています。
経済が大きく成長し、仕事や市場が広がる時代であれば、「今は返済が大変でも、将来の収入で負担が軽くなる」と期待しやすい面はあったのではないでしょうか。これは成長率から考えられる私の受け止めであり、当時の全員が将来を楽観していたという意味ではありません。
働き方や所得、住む地域による違いもあります。高度成長期、バブル期、その後の低成長期を、すべて同じ「昔」として扱うこともできません。
過去にも不安はありました。ただ、将来の成長を頼りにできる度合いは、時代によって違ったのだと思います。
今は、住宅価格と生活費の両方を考えなければなりません
住宅購入を難しくしている要因の一つは、住宅価格の上昇です。
国土交通省が2025年4月に公表した同年1月分の不動産価格指数では、2010年平均を100とした全国の区分所有マンションの指数は210.7でした。同じ公表値で住宅地は115.3、戸建住宅は116.3です。
これは個々のマンションが一律に2倍になったという意味ではありません。それでも、マンションの価格上昇が、住宅地や戸建住宅より大きかったことは読み取れます。全国すべての住宅が同じように値上がりしているわけではない点も大切です。
収入についても、「給料はまったく上がっていない」と言い切るより、物価との関係を見る必要があります。
2025年の毎月勤労統計調査の確報では、事業所規模5人以上の名目賃金指数は前年比2.3%上昇しました。一方、物価を考慮した実質賃金指数は1.3%低下しています。
給料の数字は増えていても、その給料で買えるものが増えているとは限らないのです。
住宅の価格が高くなり、日々の生活費も増える。そのうえ、長い返済期間の途中で金利や働き方が変わる可能性もあります。
今の難しさは、金利の高さだけでは説明できません。住宅価格、生活費、将来の収入をまとめて考えたとき、長期の約束をするための余裕を持ちにくいことにあるのだと思います。
単身世帯が増えれば、必要な家の形も変わります
世帯の形にも、長期的な変化があります。
国勢調査を基にした内閣府の資料によると、単独世帯の割合は1990年の23.1%から、2020年には38.1%へ上昇しました。一方、夫婦と子どもから成る世帯は37.3%から25.1%へ低下しています。
家族で長く暮らす住宅を購入する場合と、一人で暮らす場所を選ぶ場合では、必要な広さも、立地も、住む期間も違います。
ただし、単身世帯は未婚の人だけではありません。配偶者との死別や離婚、進学や就職による一人暮らしなども含まれます。「未婚の人や子どものいない世帯が増えたから賃貸が増えた」と、これらの数字だけで原因を断定することはできません。
それでも、結婚して、子どもを育て、家族向けの家を買うという生活の組み立て方だけでは、多くの人の暮らしを説明できなくなっていることは分かります。
子どもの有無にかかわらず、自分の居場所を持つために家を買う人はいます。家族と暮らす人の中にも、賃貸の柔軟さを選ぶ人はいます。
家族の形に合わせて、住まいの選び方も変わってよいはずです。
持ち家の私も、金利の先行きは気になります
私は持ち家ですが、家を買ったことで将来への不安がすべて消えたわけではありません。
変動金利の住宅ローンを利用しているので、これから金利がどこまで上がるのかは気になります。自分で変えられない金利によって、長年の返済計画が変わることには、やはり落ち着かなさがあります。
ただ、金利のニュースを毎日追っても、将来の適用金利を正確に当てることはできません。
私が考えたいのは、「どこまで上がるか」という予想に加えて、「上がったときに自分はどう対応できるか」です。
金利が今より1ポイント、2ポイント高くなった場合の返済額を確認する。生活費も増えた場合に、どれだけ余裕が残るかを見る。繰上返済をするときは、利息の削減だけでなく、手元に残るお金も確認する。
たとえば残高5,000万円なら、金利が1ポイント上がると、残高を一定とした単純計算で年間の利息負担は約50万円増えます。これは毎月の返済額がそのまま約4万2,000円増えるという意味ではありません。実際の返済額は残りの期間や返済方式、契約上の見直しルールによって変わります。
こうして負担を数字に置き換えると、必要な備えを考えやすくなります。
家を買ったあとも、その家で無理なく暮らし続けるための調整は必要なのです。
これからは、暮らしを調整できる余地を残したい
住居費は、毎月の総額で考えます
持ち家なら、ローン返済に加えて、固定資産税、保険、修繕費がかかります。マンションなら管理費や修繕積立金もあります。
賃貸でも、家賃のほかに管理費、契約に応じた更新料や保証料、住み替える際の費用がかかります。
比べるときは、家賃とローン返済額だけでなく、生活に必要な住居費の総額を見ることが大切です。さらに退職後の収入でも続けられるか、という視点を持ちたいと思います。
予想が外れても対応できるお金を残します
家を買うために現金を使い切ると、修繕や収入減への対応が難しくなります。繰上返済も、利息を減らせる一方、使える現金を減らします。
住居費や当面の生活費に使うお金は、必要なときに使える形で確保しておきたいところです。近いうちに必要な資金まで、値動きの大きい投資に回すのは慎重に考える必要があります。
残す金額は、雇用の安定性や扶養家族、健康状態によって変わります。特に一人の収入で生活と返済を支える場合は、収入が途切れたときの備えが重要になります。
将来の住み方も、少しずつ考えます
今の家が快適でも、20年後、30年後に必要な条件は変わるかもしれません。階段が負担になったり、病院や買い物先への近さが大切になったりすることもあるでしょう。
持ち家なら、売却や住み替えの可能性、建物の管理状態、今後の修繕負担を考える。賃貸なら、退職後に払える家賃や、高齢期にも利用できる住まいの選択肢を調べる。
どちらを選んでも、老後の住居費が自動的に解決するわけではありません。今の選択に加えて、将来の選択肢を持っておくことが安心につながります。
家を買うことを、人生の合格点にしなくてよい
賃貸暮らしが3割を超えたというニュースは、日本の住まい方を考えるきっかけになります。ただ、それだけで社会の豊かさや、一人ひとりの暮らしの良し悪しが決まるわけではありません。
持ち家率が高くても返済が苦しければ、暮らしは楽になりません。賃貸でも、住居費に余裕があり、好きな場所で落ち着いて暮らせるなら、それは大切な価値です。
一方で、買いたい人が価格や収入の問題で買えない状況は、個人の心構えだけで片づけられません。賃金、手頃な住宅の供給、年齢や家族構成によらず住まいを確保できる環境も、社会の課題です。
そのうえで、自分の生活では、周囲と同じ道を進むことより、続けられる暮らしを選びたいと思います。
住宅の広さ、場所、所有するかどうか。どれも、人生の途中で見直してよいことです。
私も金利の先行きは気になります。それでも、数字を確認し、備えを持ち、必要なら生活の組み立てを変える。そのための余地を残しておきたいと思います。
これから大切にしたいのは、住む場所が自分の生活を支え、仕事以外の時間や楽しみも残せることです。
家を持つ人も、持たない人も、今はまだ決められない人も。その基準で住まいを考えてよいのではないでしょうか。



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