金融庁は2026年8月、令和9(2027)年度の税制改正要望を公表しました。
今回、個人投資家にとって最も注目したいのは、NISAで商品を売却した場合に、非課税保有限度額をその年のうちに再利用できるようにする要望です。つみたて投資枠で購入できるETFの範囲が広がる可能性も示されています。
ただし、これは金融庁が今後の税制改正に向けて提出した「要望」であり、改正が決まったわけではありません。2026年9月時点では、現在のNISA制度に変更はありません。
この記事では、金融庁の要望によって何が変わる可能性があるのか、特にNISAを中心にわかりやすく解説します。
2027年度税制改正要望の主な内容
今回の主な要望は次のとおりです。
| 主な要望 | 内容 | 個人への影響 |
|---|---|---|
| NISAの利便性向上 | 売却した商品の簿価分を当年中に再利用可能にする | 大きい |
| つみたて投資枠の要件整備 | 指定指数に連動しないETFの対象要件を整える | 商品の選択肢が増える可能性 |
| 金融所得課税の一体化 | デリバティブ取引や預貯金等まで損益通算の範囲を広げる | 対象商品を利用する人には大きい |
| 生命保険料控除の拡充 | 23歳未満の扶養親族がいる場合の上乗せ措置を恒久化する | 子育て世帯が対象 |
| 銀行等による中小企業出資の特例 | 一定の出資先を「みなし大企業」から除外する | 主に企業向け |
| 信託型ステーブルコインの税務手続 | 受託者による一部調書の提出を不要にする | 主に金融事業者向け |
このほか、上場株式等の相続税の見直し、死亡保険金の相続税非課税限度額の引上げ、結婚・子育て資金の一括贈与に関する非課税措置の廃止なども「事項要望」として挙げられています。ただし、今回の資料には具体的な金額や制度設計までは示されていません。
NISAで最も注目したい「非課税保有限度額の当年中の復活」
現在のNISAには、年間投資枠とは別に1,800万円の非課税保有限度額があります。成長投資枠として利用できるのは、このうち最大1,200万円です。
NISA口座で保有する商品を売却すると、その商品の取得額、つまり簿価分の非課税保有限度額を再利用できます。ただし、現在は枠が復活するのは翌年以降です。
今回の要望では、これを売却した年のうちに復活させようとしています。
| 現在の制度 | 金融庁の要望 | |
|---|---|---|
| 売却した商品の簿価分 | 翌年以降に復活 | 売却した年に復活 |
| 非課税保有限度額 | 1,800万円 | 変更なし |
| 成長投資枠の保有限度額 | 1,200万円 | 変更なし |
| 年間投資枠 | 最大360万円 | 変更なし |
| 復活する金額の基準 | 売却額ではなく取得額 | 変更なし |
600万円分を売却した場合
たとえば、NISAの非課税保有限度額1,800万円をすべて使っている人が、取得額600万円分の商品を売却したとします。
現在の制度では、売却した2029年中は新たに買い付けることができず、600万円分の枠が復活するのは翌年の2030年です。しかも、2030年に投資できるのは年間投資枠の範囲内で最大360万円です。
要望どおりに改正されれば、売却した2029年のうちに600万円分の非課税保有限度額が復活します。ただし、同じ年に買い直せる金額は、つみたて投資枠120万円と成長投資枠240万円を合わせた年間最大360万円までです。
つまり、600万円分を売却したからといって、その年に600万円を買い直せるわけではありません。
復活するのは売却額ではなく取得額
枠の計算は時価ではなく簿価で行われます。
たとえば、600万円で購入した商品が900万円に値上がりし、900万円で売却した場合に復活するのは600万円分です。反対に、600万円で購入した商品が400万円に値下がりして売却した場合も、復活するのは600万円分です。
この仕組みは今回の要望でも変わりません。
年間投資枠を使った分は復活しない
今回の要望は、1,800万円の非課税保有限度額を当年中に復活させるものです。年間投資枠そのものを売却によって復活させる要望ではありません。
その年にすでに100万円を買い付けていれば、売却後に利用できる年間投資枠は最大260万円です。売買を繰り返して年間360万円を超えて投資できる制度になるわけではありません。
この変更は誰に影響するのか
当年中の枠復活が特に役立つのは、非課税保有限度額1,800万円を使い切った人です。
2024年から毎年360万円を投資すると、5年間で1,800万円に達します。翌年の2029年からは、商品を売却しない限り新たな投資はできません。
この状態で商品を入れ替えたい場合、現在は売却してから翌年まで待つ必要があります。改正されれば、売却した年のうちに別の商品へ乗り換えられるようになります。
金融庁の資料も、新NISAで年間投資可能額が360万円未満になり得るのは2029年以降と説明しています。それでも今回から要望しているのは、投資家に早めにルールを示すことに加え、金融機関のシステム対応に時間がかかるためです。
一方で、まだ1,800万円を使い切っていない人には、当面の影響はそれほど大きくありません。年間投資枠や非課税保有限度額が増える要望でもないためです。
つみたて投資枠で購入できるETFが増える可能性
もう一つのNISA関連要望が、つみたて投資枠における対象商品の要件整備です。
現在、指定された指数に連動する投資信託やETFには対象要件があります。指定指数に連動しない公募投資信託についても、純資産額50億円以上、運用開始から5年以上などの要件が設けられています。
一方、指定指数に連動しないETFについては要件が整備されていません。金融庁は、ETF市場の環境整備が進んだことを踏まえ、つみたて投資枠の対象にできるETFの要件を新たに整える方針を要望しています。
これが実現すれば、一定の条件を満たすアクティブETFなどが、つみたて投資枠の対象になる可能性があります。ただし、すべてのETFが購入できるようになるわけではなく、具体的な対象商品もまだ決まっていません。
S&P500や全世界株式などの一般的なインデックスファンドを積み立てている人にとっては、すぐに運用方法を変えるような内容ではありません。
NISA以外で注目したいポイント
デリバティブ取引や預貯金等まで損益通算を拡大
現在、上場株式や公募株式投資信託、特定公社債などは、一定の範囲で利益と損失を相殺できます。
一方、先物・オプションなどのデリバティブ取引や預貯金等は、これらと損益通算できません。金融庁は、金融商品間の損益通算の範囲をデリバティブ取引や預貯金等にまで広げるよう要望しています。
実現すれば、複数の金融商品を利用する投資家にとって税務上の扱いが大きく変わる可能性があります。ただし、意図的な租税回避を防ぐ仕組みも必要になるため、今回も「総合的に検討する」とされており、早期に実現するかは不透明です。
子育て世帯の生命保険料控除を恒久化
23歳未満の扶養親族がいる場合、一般生命保険料控除の所得税における上限を4万円から6万円へ引き上げる措置が、2026年分と2027年分の時限措置として設けられています。
今回、この2万円の上乗せを恒久化することなどが要望されました。一時払生命保険は対象外で、介護医療保険料控除や個人年金保険料控除を合わせた所得税の控除上限12万円も変わりません。
なお、控除額が2万円増えることは、支払う税金が2万円減るという意味ではありません。実際の減税額は、適用される所得税率などによって異なります。
中小企業への出資を促す特例
銀行などの投資専門子会社が中小企業へ一定割合以上出資すると、現在は出資先が「みなし大企業」に該当し、中小企業向けの投資促進税制や賃上げ促進税制などを利用できない場合があります。
金融庁は、事業再生や事業承継、地域活性化を目的とした一定の出資先を、みなし大企業から除外するよう要望しています。個人に直接影響する制度ではありませんが、地域企業へ資本性資金を供給しやすくする狙いがあります。
信託型ステーブルコインの税務手続を軽減
信託型ステーブルコインは、不特定多数の利用者間で移転するため、受託者がすべての保有者情報を把握することが困難です。
そのため金融庁は、受益者が変わるたびに必要となり得る受益者別調書や信託の計算書について、提出を不要にするなどの措置を要望しています。これは利用者への新たな非課税措置ではなく、主に発行・管理する事業者の実務負担を軽減する内容です。
今すぐNISAの運用を変える必要はない
今回の資料は税制改正要望であり、法律でも税制改正大綱でもありません。今後、政府・与党で議論され、通常は年末の税制改正大綱で採用されるかどうかが明らかになります。その後、法案の成立や施行を経て、初めて制度が変わります。
そのため、今回の発表を理由に保有商品を売却したり、積立設定を変更したりする必要はありません。
特にNISAについては、年間投資枠が増えるわけでも、非課税保有限度額が1,800万円を超えるわけでもありません。主な変更案は、1,800万円を使い切った後の商品入れ替えをしやすくする、実務的な改善です。
個人的には、売却した簿価分を当年中に再利用できるようにする改正は、NISAを長く使ううえで自然な改善だと思います。長期投資が基本であることに変わりはありませんが、資産配分の見直しや、より低コストの商品への乗り換えを1年待たずに行えるようになるからです。
ただし、売却によって年間投資枠まで何度も復活する制度ではありません。短期売買を促すほどの変更ではなく、長期保有を前提としながら柔軟性を少し高める内容と見るのが妥当です。
まとめ
金融庁の2027年度税制改正要望で、個人投資家が特に注目したいのは次の3点です。
- NISAで売却した商品の簿価分を、翌年ではなく当年中に再利用できる可能性がある
- 指定指数に連動しないETFの要件が整備され、つみたて投資枠の対象商品が増える可能性がある
- デリバティブ取引や預貯金等まで損益通算の範囲が広がる可能性がある
なかでもNISAの当年中の枠復活は、1,800万円の非課税保有限度額を使い切った後の利便性を大きく改善します。
ただし、現時点では要望段階です。年末の税制改正大綱でどこまで採用されるのか、引き続き確認する必要があります。


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