最近、「日本人は旅行に行かなくなったのではないか」という話題が、ニュースやSNSなどで取り上げられています。
国内の観光地では外国人旅行者の姿が目立つ一方、海外へ出かける日本人はコロナ前ほど戻っていません。
しかし、日本人が旅行そのものに興味を失ったのでしょうか。
実際には、旅行の回数だけでなく、旅行に対する考え方が変わっているように思います。
国内旅行も海外旅行も、「安いから行ってみる気軽なもの」から、「目的を持って選ぶ特別な体験」へ変わりつつあるのではないでしょうか。
国内旅行は減ったが、使うお金は増えている
観光庁の調査によると、2025年の日本人国内延べ旅行者数は5億5,313万人でした。
コロナ前の2019年は5億8,710万人だったため、約5.8%減少しています。
一方、国内旅行で使われた金額は大きく増えています。
| 2019年 | 2025年 | 増減 | |
|---|---|---|---|
| 国内延べ旅行者数 | 5億8,710万人 | 5億5,313万人 | 約5.8%減 |
| 宿泊旅行者数 | 3億1,162万人 | 2億9,997万人 | 約3.7%減 |
| 日帰り旅行者数 | 2億7,548万人 | 2億5,316万人 | 約8.1%減 |
| 国内旅行消費額 | 21兆9,312億円 | 26兆7,845億円 | 約22%増 |
| 1人1回当たりの旅行支出 | 37,355円 | 48,424円 | 約30%増 |
旅行者数は減っているのに、旅行消費額は増えています。
これは、日本人が以前より豪華な旅行を楽しむようになったというより、同じような旅行をしても多くのお金が必要になった影響が大きいでしょう。
交通費、宿泊費、飲食費などが上昇し、旅行1回当たりの負担が重くなっています。
ビジネスホテルは気軽に泊まる場所ではなくなった
以前は、ビジネスホテルを気軽に利用できる日が多くありました。
仕事が遅くなったから泊まる。
翌朝が早いから前日に移動しておく。
飲み会のあと、無理に帰らずホテルで休む。
特別な予定がなくても、気分転換として近くのホテルに泊まる。
宿泊料金が安ければ、このような使い方も現実的でした。多少もったいないと感じても、数千円でゆっくりできるなら泊まってしまおう、と考えられたのです。
ところが現在、都市部のビジネスホテルでは、普通の部屋でも1泊1万5,000円から2万円を超えることがあります。週末やイベント開催日には、さらに高くなることも珍しくありません。
総務省の消費者物価指数では、全国の宿泊料は2025年平均で前年比6.8%上昇しました。2025年6月を2019年6月と比較すると、宿泊料は約32%高くなっています。
出典:総務省「2025年消費者物価指数」、浜銀総合研究所「まだまだ続く旅費高騰」
1泊5,000円や8,000円なら、「今日は泊まってしまおう」と思えても、1泊1万5,000円や2万円になると話は変わります。
本当に泊まる必要があるのか。
少し遅くなっても家へ帰った方がよいのではないか。
その金額を払うなら、別のことに使った方がよいのではないか。
予約する前に、宿泊する価値を考えるようになります。
ビジネスホテルは、単に寝るための場所から、目的がなければ利用しにくいものになってきました。
海外旅行はコロナ前より約27%少ない
海外旅行では、さらに大きな変化が起きています。
2019年の日本人出国者数は約2,008万人でしたが、2025年は約1,473万人でした。前年比では回復しているものの、コロナ前と比較すると約27%少ない水準です。
海外旅行に行かない理由としては、旅行費用の高さ、家計の余裕のなさ、円安などが挙げられています。
航空券が高くなり、海外のホテル代や食事代も上昇しました。そこへ円安が重なるため、日本円で考えた負担は以前よりはるかに大きくなっています。
以前は海外の物価が日本と同程度、あるいは日本より安い国も少なくありませんでした。
「航空券が安いから行ってみよう」
「連休が取れたから、まだ行ったことのない国へ行ってみよう」
「現地の物価も安そうだから、ちょっと行ってみようか」
それくらいの動機でも海外へ出かけられました。
多少期待外れでも、「まあ、行ってみてよかった」で済ませることができました。費用がそれほど高くなければ、失敗も旅行の思い出として受け入れられたのです。
「ちょっと行ってみよう」が難しくなった
現在は、海外旅行へ行く前に、それだけのお金を払う価値があるのかを考えるようになりました。
航空券、ホテル、食事、現地交通、買い物などを合わせれば、近距離の海外でも十数万円、欧米なら数十万円かかります。
さらに、長時間の移動、時差、言葉の問題、入出国手続き、治安への注意、サービスの違いといった負担もあります。
それだけの費用と時間を使うのであれば、
- そこでしか見られない景色や建築
- その美術館にしかない作品
- 現地でしか体験できない文化
- どうしても食べたい料理
- 会いたい人
- 参加したいイベント
といった明確な目的が必要になります。
単に「行ったことがない国だから」という理由だけでは、決断しにくくなっているのです。
旅行が期待外れだったときも、以前と同じように受け止めるのは難しくなりました。
高い航空券を買い、高いホテルに泊まり、現地でも物価の高さを感じたうえで、食事やサービスが期待したほどではなかった場合、「まあ、行ってみてよかった」と簡単には思えません。
旅行代金が上がるほど、旅行先に求めるものも大きくなります。
日本国内の旅行体験はもともと水準が高い
日本人が海外旅行を選びにくくなった理由は、円安や物価高だけではありません。
日本国内の旅行環境が、総合的に見て非常に高い水準にあることも関係しています。
日本には、北海道から沖縄まで異なる自然があります。
温泉、雪景色、火山、離島、美しい海、歴史的な街並み、美術館、テーマパーク、コンサート、スポーツイベントなど、国内だけでも多様な体験ができます。
食事の選択肢が豊富で、比較的安い店でも味と衛生面が安定しています。公共交通機関は正確で、言葉の心配もなく、治安面でも安心して移動できます。
海外にしか存在しない景色や文化は確かにあります。
しかし、「日本と違うものがある」というだけで、高いお金を払って行く価値が生まれるとは限りません。
日本国内で同等、あるいはそれ以上に満足できる体験が簡単に手に入るのであれば、無理に海外へ行く必要はないと考えるのは自然なことです。
旅行離れではなく、旅行の選別が進んでいる
日本人は旅行に行かなくなったというより、旅行先を厳しく選ぶようになったのではないでしょうか。
国内旅行では、何となく泊まることをやめ、日帰りにする。
何度も旅行するのではなく、回数を減らして、本当に行きたい場所を選ぶ。
海外旅行では、安いから行ってみるのではなく、そこでしか得られない体験があるかを考える。
旅行に求めるものが、国内でも海外でも明確になっています。
本来、旅行は費用対効果だけで判断するものではありません。
予定外の発見や、期待していなかった場所との出会いも旅行の魅力です。何となく出かけた旅が、後になって大切な思い出になることもあります。
しかし、旅行費用が大きく上昇すれば、気軽に失敗することは難しくなります。
安ければ許容できた期待外れも、高いお金を払ったあとでは受け入れにくくなります。
「知らない場所だから行ってみる」という好奇心だけではなく、「高いお金と時間を使っても行きたい」と思える理由が必要になったのです。
まとめ
日本人は、旅行そのものをしなくなったわけではありません。
国内旅行者数はコロナ前より少ないものの、旅行に使われる金額は増えています。海外旅行者数は回復を続けていますが、依然としてコロナ前の7割強です。
消えつつあるのは、旅行ではなく「何となく出かける気軽な旅行」なのかもしれません。
以前は、
「安いから泊まってみよう」
「行ったことがないから行ってみよう」
「多少期待外れでも、経験になるからいい」
と考えることができました。
現在は、
「その金額を払う価値があるのか」
「そこでしか見られないものがあるのか」
「国内旅行では代替できないのか」
を先に考えるようになっています。
国内旅行も海外旅行も、「安いから行く気軽なもの」から、「目的を持って選ぶ特別な体験」へ変わったのでしょう。
日本人が旅行に行かなくなったのではなく、高くなった旅行に対して、以前より慎重に行き先を選ぶようになったのではないでしょうか。
あなたにとって、高いお金と時間を使ってでも行きたいと思える場所は、どこでしょうか。


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