四国新幹線の計画が、約半世紀ぶりに動き始めました。
国土交通省は、2026年度に実施する「基本計画路線に係るケーススタディ」の対象として、「四国の新幹線」と「東九州新幹線」を選定しました。
四国新幹線は1973年に基本計画へ位置付けられたものの、その後は大きな進展がありませんでした。
今回、国が輸送需要やルート、駅の位置、事業の進め方などを具体的に調査します。
ただし、建設が決まったわけではありません。
四国新幹線は本当に実現するのでしょうか。
開業した場合、四国と関西・東京を結ぶ飛行機やフェリーには、どのような影響が出るのでしょうか。
今回決まったのは「建設」ではなく「調査」
まず押さえておきたいのは、今回の発表によって四国新幹線の建設や開業が決まったわけではないということです。
国土交通省が行うのは、基本計画路線の実現可能性を検討するためのケーススタディです。
調査では、主に次のような内容が検討されます。
- どれくらいの利用者が見込めるのか
- どのルートが適しているのか
- 駅をどこに設置するのか
- 建設費はいくらになるのか
- どのような事業体制で整備するのか
- 建設費に見合う効果があるのか
四国では1973年に「四国新幹線」と「四国横断新幹線」が基本計画に位置付けられました。
しかし、それから半世紀以上にわたり、具体的な整備計画には進んでいません。
今回のケーススタディも、法律上の「整備計画」へ直接つながる法定調査ではありません。
それでも、これまでほとんど動いていなかった計画を、国が四国を名指しして調査する意義は大きいと思います。
「四国に新幹線ができることが決まった」のではなく、「国が初めて本格的に可能性を計算する段階に入った」と受け止めるのが適切でしょう。
参考:KSB瀬戸内海放送
四国新幹線の想定ルートは?
1973年に決められた基本計画には、もともと2つのルートがあります。
| 路線 | 基本計画の区間 |
|---|---|
| 四国新幹線 | 大阪―徳島―高松―松山―大分 |
| 四国横断新幹線 | 岡山―高知 |
四国新幹線は、大阪から紀淡海峡を越えて淡路島、徳島、高松、松山を通り、さらに豊予海峡を越えて大分へ向かう壮大な構想です。
一方の四国横断新幹線は、岡山から瀬戸大橋を通り、高知へ向かう計画です。
ただし、大阪―徳島間の紀淡海峡や、松山―大分間の豊予海峡に新たな海底トンネルを建設するには、莫大な費用がかかります。
そこで現在、本命と考えられているのが「岡山ルート」です。
岡山から瀬戸大橋を渡って四国へ入り、松山、高松、徳島、高知の4県庁所在地を新幹線で結ぶ構想です。
瀬戸大橋には、在来線の線路とは別に、新幹線用の線路を設置できる空間があらかじめ確保されています。
そのため、新たに海峡トンネルを建設するよりは、瀬戸大橋を利用する方が現実的です。
今回のケーススタディも、岡山と四国4県の県庁所在地を結ぶ「岡山ルート」が中心になると報じられています。
ただし、具体的なルートや駅の位置はまだ決まっていません。
高松、松山、高知、徳島の現在の中心駅に乗り入れるのか、それとも市街地の外側に新駅を造るのかによって、利便性も建設費も大きく変わります。
参考:徳島新聞
四国新幹線は本当に実現できるのか
四国新幹線には追い風もあります。
四国4県と経済界がまとまって国に要望していることに加え、観光振興や地域経済の活性化、南海トラフ地震に備えた交通ネットワークの強化という理由もあります。
現在のJR四国の在来線は、高速道路や高速バスとの競争、人口減少、運転士不足など、厳しい環境に置かれています。
新幹線による抜本的な高速化が実現すれば、四国と関西の移動は大きく変わります。
一方で、実現に向けた最大の壁は建設費と利用者数です。
四国新幹線整備促進期成会が過去に行った試算では、4県庁所在地を結ぶルートについて、次のような数字が示されました。
| 項目 | 過去の試算 |
|---|---|
| 整備総延長 | 約302km |
| 概算事業費 | 約1兆5,700億円 |
| 平均輸送密度 | 1日約9,000人 |
| 費用便益比(B/C) | 1.03 |
費用便益比が1を上回っているため、数字上は建設費を上回る効果があることになります。
しかし、1.03という数字には、ほとんど余裕がありません。
しかも、この試算は現在よりも資材費や人件費が安かった時期の建設単価を基にしています。
近年は新幹線や高速道路など、大規模公共事業の建設費が大幅に上昇しています。
現在の価格で再計算すれば、事業費が2兆円を超え、費用便益比が1を下回る可能性もあります。
瀬戸大橋に新幹線用の空間が用意されているとはいえ、岡山側と四国側に接続する新線、長大トンネル、高架橋、新駅などは一から建設しなければなりません。
「瀬戸大橋を使えるから簡単に造れる」というわけではありません。
開業するとしても2040年代以降か
現時点では、開業時期は決まっていません。
今回のケーススタディの後も、実際に着工するまでには多くの段階があります。
- ケーススタディの実施
- 法定調査
- 基本計画から整備計画への格上げ
- 営業主体と建設主体の決定
- 国と地方の財源確保
- 並行在来線に関する合意
- 環境影響評価
- 工事実施計画の認可
- 着工
- 建設工事
- 開業
現在は、まだ最初の方に位置しています。
仮に調査結果が良く、国や自治体の合意が順調に進んだとしても、2030年代前半の着工、2040年代以降の一部開業というのが現実的な最短イメージではないでしょうか。
これは公式な開業見通しではなく、今後必要になる手続きを考慮した予想です。
全区間を一度に建設するのではなく、岡山から高松・松山方面など、需要を確保しやすい区間から段階的に整備する可能性もあります。
四国4県のうち、どこを優先するのかという問題も避けられません。
開業したら関西―四国の飛行機は厳しい
四国新幹線が過去の想定どおりに完成すれば、最も大きな影響を受けるのは関西と四国を結ぶ航空路線です。
過去の試算では、新大阪から各都市までの所要時間は次のように想定されています。
| 区間 | 新幹線の想定所要時間 |
|---|---|
| 新大阪―高松 | 約75分 |
| 新大阪―徳島 | 約95分 |
| 新大阪―松山 | 約98分 |
| 新大阪―高知 | 約91分 |
これは正式なダイヤではなく、過去のルート案を基にした試算です。
それでも、新大阪から松山や高知まで約1時間半で移動できるなら、飛行機にとっては非常に強い競争相手になります。
飛行機は飛行時間だけを見ると速いのですが、実際には空港までの移動、保安検査、搭乗待ち、到着後の市街地への移動が必要です。
大阪市内から伊丹空港へ向かい、飛行機で松山や高知へ移動するより、新大阪駅からそのまま新幹線に乗った方が簡単になります。
特に影響が大きそうなのは、
- 伊丹―松山線
- 伊丹―高知線
- 神戸―高知線
など、現在も関西と四国を結んでいる短距離航空路線です。
すぐに全便がなくなるとは限りませんが、新幹線開業後は減便、小型化、運賃の引き下げ、場合によっては路線撤退も考えられます。
東海道新幹線の利便性向上や完全個室の導入なども進んでいます。
新幹線が速さだけでなく、快適性やプライバシーでも飛行機に近づけば、関西―四国の短距離便はかなり厳しくなるでしょう。
羽田―四国便は残る可能性が高い
一方、東京と四国を結ぶ飛行機が一気に不要になるとは考えにくいです。
東京から岡山を経由して高松、松山、高知、徳島まで新幹線で移動する場合、目的地によっては4時間前後、あるいはそれ以上かかる可能性があります。
東京―大阪では新幹線が優位ですが、東京―四国になると飛行機にも十分な競争力が残ります。
特に松山と高知は東京からの鉄道距離が長いため、羽田便の優位性が残りやすいでしょう。
一方、高松は岡山に近く、東京から乗り換えなしの直通列車が設定されれば、航空利用者の一部が新幹線へ移る可能性があります。
高松空港は市中心部からやや離れているため、東京駅や品川駅から高松市中心部まで直接移動できる新幹線は便利です。
四国新幹線が開業した場合の航空路線は、次のような形になるのではないでしょうか。
- 関西―四国便は大幅に縮小
- 羽田―松山・高知便は引き続き維持
- 羽田―高松・徳島便は新幹線との競争が激化
- 福岡・沖縄・札幌など、新幹線と競合しにくい路線は維持
- 航空会社は便数や使用機材を需要に合わせて見直す
飛行機が完全に消えるというより、「関西便は新幹線、東京便は飛行機との競争」という構図になりそうです。
フェリーは飛行機ほど致命的な影響を受けない
四国と本州・九州の間には、現在も多くのフェリーが運航されています。
代表的な航路には、
- 神戸―小豆島―高松
- 和歌山―徳島
- 大阪―東予
- 神戸―新居浜
- 広島・呉―松山
- 柳井―松山
- 八幡浜―別府・臼杵
- 三崎―佐賀関
- 東京―徳島―北九州
などがあります。
参考:四国旅客船協会・航路案内
新幹線が開業すれば、徒歩で乗船する一般旅客の一部は鉄道へ移るでしょう。
特に神戸―高松、和歌山―徳島、大阪―東予など、関西と四国を結ぶ航路は影響を受ける可能性があります。
ただし、フェリーには新幹線にはない役割があります。
- 車やバイクをそのまま運べる
- トラック物流を担っている
- 夜行便なら移動と宿泊を兼ねられる
- ペットと一緒に移動しやすい
- 運賃を抑えられる場合がある
- 船旅そのものを楽しめる
例えば、大阪南港と東予港を結ぶオレンジフェリーは、夜に出発して翌朝に到着します。
新幹線より時間はかかりますが、寝ている間に移動でき、車も一緒に運べるという大きな強みがあります。
参考:オレンジフェリー
そのため、四国新幹線の開業によってフェリーが一斉に廃止されるとは考えにくいです。
一般旅客の移動では新幹線が優位になっても、車両輸送、トラック物流、夜行移動、観光需要ではフェリーが残ります。
「速さを求める人は新幹線、車や荷物を運ぶ人はフェリー」という棲み分けが進むでしょう。
もっとも、四国のフェリーはすでに人口減少、燃料費、人手不足、高速道路との競争などに直面しています。
四国新幹線が開業する頃までに、現在の航路がすべて残っているとは限りません。
新幹線そのものより、地域の人口減少や物流環境の変化の方が、フェリーにとって大きな問題かもしれません。
新幹線だけでなく在来線の将来も重要
四国新幹線の議論では、速さや経済効果に注目が集まりがちですが、在来線をどうするのかも重要です。
整備新幹線が開業した地域では、新幹線と並行する在来線がJRから経営分離され、第三セクターへ移管される場合があります。
四国でも予讃線、土讃線、高徳線などがどのような扱いになるのか、現時点では決まっていません。
新幹線の駅が郊外に設けられ、在来線の本数まで減ってしまえば、沿線住民にとっては不便になる可能性があります。
新幹線が四国の鉄道を救うのか、それとも利用者を新幹線へ集めた結果、地域の在来線がさらに厳しくなるのか。
四国新幹線を考える際には、新幹線単体の採算性だけでなく、四国全体の鉄道ネットワークをどう維持するのかという視点が必要です。
まとめ
今回のニュースは、四国新幹線の建設決定ではありません。
それでも、1973年の基本計画決定から半世紀以上動かなかった計画について、国が具体的な需要、ルート、駅位置などを調べ始める意味は大きいと思います。
実現に向けた本命は、瀬戸大橋を利用して岡山と四国4県の県庁所在地を結ぶルートです。
技術的には実現可能と考えられますが、問題は建設費と利用者数です。
過去の試算では約1兆5,700億円でしたが、現在の建設価格で再計算すれば、さらに膨らむ可能性があります。
人口が減少する四国で、巨額の建設費に見合う需要を確保できるのか。
今回の調査では、そこが厳しく検証されることになるでしょう。
もし新大阪から高松、松山、高知、徳島まで1時間半前後で結ばれれば、関西―四国の航空路線は相当厳しくなります。
東京便は残る可能性が高いものの、高松などでは新幹線との競争が激しくなりそうです。
フェリーについては一般旅客の一部が新幹線へ移る一方、車両輸送、物流、夜行移動という役割があるため、飛行機ほど直接的な打撃にはならないでしょう。
四国新幹線は、あれば間違いなく便利です。
新大阪から松山や高知まで約1時間半になれば、四国旅行のあり方も大きく変わります。
ただし、「便利だから造る」だけでは進められない規模の事業です。
今回のケーススタディによって、四国新幹線が現実的な交通政策として整備計画へ進むのか、それとも建設費や需要の壁に阻まれるのか。
約半世紀動かなかった計画が、本当に動き始めるのか注目したいと思います。



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